プロ野球のドラフト会議と新潟商と星野順治と

プロ野球のドラフト会議が近づいてきた。

だからだろうか、今朝、ふと新潟商のエースだった星野順治(元ソフトバンク)のことを思い出した。僕は一応、元高校球児なのだが、母校と新潟商は、毎年、練習試合をしていた。

自分がプロ野球選手にはなれないと感じたのは高1の秋。それは優れたチームメイトと自分の差を痛感したからなのだけど、外の世界には、その力あるチームメイトをも軽くひねってしまう、さらに上の選手がいることも試合などを通じて追々知り、諦めは心底からのものになった(気づくの遅い)。

たとえば入学直後の1年生のくせにウチをいきなり5回無安打に抑えた嶋重宣(元広島ー西武)、対戦はしなかったが前の試合のブルペンでとんでもないボールを投げていた小野仁(元巨人ー近鉄)、スイングしたと思ったら一瞬で打球がフェンスに「激突」した松井秀喜(元巨人ーヤンキース他)などなど。

そして1学年上だった星野順治も、そんな選手の一人だった。
高2の6月の練習試合。星野が好投手だという評判は聞いていたので、僕は「どんなピッチャーなんだろう」とワクワクしていた。まだネットもなく情報が少ない時代である。

ところが想像に反して星野は嶋や松井のようなフィジカルの持ち主ではなく、小さくはないがやや細身で静かな雰囲気の選手だった。
既に補欠人生まっしぐらだった僕は、アップをしているチームメイトを横目に、新潟商のメンバーを荷物置き場やアップ場所に案内する役目をしていた(雨の影響でグラウンドは試合まで使わないことになっていた)。
ランニングコースを1周だけ先導したとき、後ろにいた大人しそうな星野の顔を見て「本当にプロ注目なの?」と感じたことを憶えている。

が、その疑いは試合になると圧倒的に覆される。
サイド気味のスリークォーターから放たれる真っすぐのキレは抜群で、スピードガンの数字は常時130キロ台半ば。
この「常時」というのがポイントで、数球、速いボールがあるわけではないのだ。
投げている印象から、完投を考えてペース配分していることはうかがえた。商業高校の男子生徒減少がささやかれ始めた頃で、新潟商の部員も少なかった。「夏を勝ち抜くピッチング」を試しているのかな、と感じた。
「全力で投げないでこれかよ……」
先輩や同級生がバタバタ三振する結果をスコアにつけながら、ため息をつかされた。

経験者ならわかってもらえると思うが、当時の高校野球の現実に「プロのようにポンポン、ホームランが出るものではない」「一般的な投手は140キロどころか130キロを出すのも難しい」ということがある。
ちょうどその頃、MAXが130キロ台を記録し始めた同級生ピッチャーがいて「おお、やったな」と思っていただけに、134,5キロを、7、8分くらいの力でずーっと出し続ける星野の凄さが身にしみた。
結局、彼は涼しい顔で完投勝利を挙げた。

星野は社会人を経てダイエー、後のソフトバンクに入団。
騒がれたルーキーではなかったが、高校生にして淡々と自分のペースを守りながら高いレベルで課題に取り組む(ように見えた)星野のピッチングにやられていた僕は、プロでもある程度やるんじゃないかと勝手に感じていた。まあ、多分に身びいきもあったが。
結果は156試合に登板、2ケタ勝利も2度挙げてプロ通算50勝。リーグ優勝や日本一にも貢献した。
大スターではなかったが、成功した部類に入るプロ人生だろう。

特に親しくならず言葉も交わさなくても、対戦経験がある選手というのは、なんとなく肩入れしてしまうもの。
ドラフト会議は、全国のあちらこちらで、そんな思い出が生まれるイベントでもあるんだろうな、といまだ星野のことを鮮明に記憶している自分に苦笑。プロ野球選手は、そんな意味でも「夢を背負った」職業なのだと思う。